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熱いうちに打つ

会社の先輩に誘われてミュージカル『グランドホテル』を観てきた(お誘いいただきありがとうございました)。

僕はこれまでに数えるほどしかミュージカルを観たことがないので決して良き観客ではないし、語る言葉もないのだけれども男爵はとてもよかったと思う。あとはプリマバレリーナを支えるラファエラの献身性も良かった。

 

印象に残っているのはオットーが死について語るシーンで、いろいろとこじらせてきた僕にとってはなんとも親近感のあるセリフ回しだった。観劇中思い出されたのは、『切りとれ、あの祈る手を』で佐々木中モーリス・ブランショの言葉を引いて「死」について語るところで、自分が死んだことを知っているものはなく、『私』たちは『死ぬ』ことができないのだ。

 

ところで、ミュージカルについて語る言葉を持ち合わせていない僕がこうして文章を書き始めたのはまさしく『グランドホテル』という題名のせいである。お誘いいただいた時から、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』を思い出さずにはいられなかったのである。

蓮實重彦によって「題名によって勝利はあらかじめ約束されている。『グランド・ブダペスト・ホテル』と聞けば、誰だってとびきり面白そうな映画だと確信するしかないからである。」と評されるその映画は、事実、とびきり面白い映画となっている。

ポップでカラフルな画面と軽やかな画面の切り替えから成るその映画は、まさしく上質な娯楽映画であって、ゆめゆめ全米が涙するような映画ではない。とはいえ劇場で鑑賞時に、アガサが自転車に乗っているという、ただそれだけのシーンの奇妙なまでの美しさに思わず涙してしまった題名によって勝利が約束されているその映画は、僕の中では、上質な娯楽映画ではなく極上に美しい映画として記憶されているのである。